スピンについて

自力でスピンの原理を解明へ

スケートを始めた時点で、スケーティングとジャンプについてはある程度のビジョンは持てたが、
回転技については、全く未知の領域で、ここには足を踏み入れまいと思っていた。
しかし、スリー・ジャンプが出来る様になると欲が出るもので、アクセル・ジャンプに進みたいと思った。
空中で軸を作るなど途方もないことだと思いつつも、スリー・ジャンプが出来る様になって半年も
経たないうちに1〜2度は、アクセルの1回転半を成功させてはいたのだ。
しかし、ほとんどまぐれの領域。良いイメージを保つ基礎もなく崩れた。
多分、スピンを習得しない限りは無理だろうとその頃考えていたが、やはりスピンは必須の様だ。
1回転くらいまでならスピンは必要ないと思う。
 私が、スピンを習得する段階と経緯は、とても特殊だ。書籍で見た様な微々たる解説で知った方法も
ある意味無視している。既存の方法とは違い、もっと原始的な基礎から気長に・・・。
当初、教えてもらわなければ、スピンなど出来る様にならないと感じていたのも確かだが、バック滑走
ですら最初は不可能に思えたのだし、片足だけで加速して進む波形滑走など、出来ないと思っていたものを
幾つか習得してきたので、何とかなるだろうという楽観視も出来た。
ジャンプのための回転が得られればいいのだから、とにかく上半身だけでも軸を作って回転させられれば
目的は達成できると考えてのことだ。
 最初は、両足スピンか・・・?
しかし、これはバランス・ポイントの置き方が片足スピンとは異なるため、参考にならないと思って
ほとんど練習していない。しかし、後でそれをやってみるとそこそこ出来る様になっていた。
回転軸以外で片足で体重を支えなければならないということは・・・、試しに両足スピンを途中から
片足にしてみたらどうなるだろう。反対側で支えたもの代わりを遠心力か何かで補わない限り無理だ。
だから、両足スピンで片足スピンのバランス要素を練習することは出来ない。
今考えると、体重さえ軽ければ両足スピンから簡単に片足スピンへ移行出来るのかも知れないと思うが、
いずれにしても習得したかったバランスの取り方の練習にはなりそうもなかった。
とはいっても、両足スピンはブレードを円の接線に固定してフラットエッジを保つ練習にはなる。
足首の鍛練だ。適切な角度でエッジをコジないようにするのはそれだけで難しい。
ニの字ストップを習得するのも全く同じで足首の固定と、微妙な角度調整が必要なのだ。
 結局、最初に練習をしたのが、エッジ・ワークを気にせず回る惰性スピン。
上半身を惰性で回転させて、ブレードはなるべくコジないようにフラット・エッジに保って抵抗の
少ない向きに順応させるということをやっていた。このとき興味深いのは、トレースを見ると円や
螺旋ではなく、ターン図形の繰り返しになっていることだ。滑走中にブレードを氷につけたまま
回転するとπ型のトレスを描くが、自分のはそれだった。
下図の様に、ループ図形を引き延ばすとπ型になる。



 次に、ターン図形を円形にするためにスピンに最も近いと思われる図形を練習した。
ループ図形である。どうしても下手なスピンをするとその場で穴を掘ってしまうのだが、
スピンは滑走の一種である。その場で氷をえぐってはいけない。
だから滑走で比較的小さな楕円を描いて滑るループ図形は良い練習になったと思う。
これによってターンしかしなかったトレースが回転図形に次第に変わっていった。
しかし、これもまだまだ不十分で、後に述べる秘密の練習によって大きな変化が起きた。
ループ図形もとても難しく、なかなか習得出来なくて悔しい思いをした。
まだ完全には習得したとは言えないが、形にはなっている。
惰性スピンとループ図形が自分にもたらしたのは、筋力のトレーニングだと思う。
確かに、スリー・ジャンプで片足着氷するだけの筋力はあったが、
 ジャンプは瞬発力の技
 スピンは持続力の技
スピンを行うには、「足を棒にする」というくらいに、片足で立つ持続力が必要だった。
片足波バックよりも、むしろループ図形の方が役立っていると思う。
重心位置を軸にして回転することは容易だが、スピンは回転中心と重心位置が異なるらしい。
これらの基本原理を理解するのに、コンパルソリーのループ図形は大いに役立った。
 私のスピン練習の特殊性は、もう一つある。
私は、時計回りの回転方向を選んだので普通なら、右足でのスピンから練習するところを、
左足から練習したということである。なぜそうしたかという理由の一つは、オリンピック選手の
メインの軸足がそうだからである。なぜオリンピック選手がその足を軸足に選ぶかというと、
ジャンプの際の軸足になるからということらしい。左足から練習したその他の理由としては、
こちらの方がスクラッチ・スピンの際に軸を絞りやすいと感じたのと、RBOのループ図形の
イメージと技のモチーフが似ていると思ったことにある。
案の定、これはこれでスピン習得には遠回りにはなったが、考えていた通りだった。
また、こちらを鍛えておけば右足側を練習するのは簡単そうだ。

基本原理の模索

エッジをコジないように
 体重をブレードのどこに乗せるのか
 適切な回転速度と円の直径は
 軸をどのように通せばいいのか
など散々考えても結論が出ない。
そこで日常の中で、スピンの動作に近いものを探してみることにした。
まず、最初に思い付いたのは、コインを指で弾いて回すコイン回し。



条件によっては、重心を中心にきれいに回転するが、机との摩擦やコインの弾き方で
片寄った軸で中心を空洞にして回ることがある。スピンの原理解明として決定的ではないが、
これはまあまあのヒントになった。

 次に、スピンとは直接関係ないが、スピンと同様に難しい、外国製の玩具に出会った。
丁度その頃周囲で流行っていたのだ。ボールの中にはずみ車が入っていて、これを高速に
回転させるのだ。



手首のグリップでY軸の回転を与えて、X−Z平面上にあるはずみ車の軸にその回転を
うまく伝達させると中のはずみ車が驚くべき速度、うまくすれば10,000rpm以上で
回転する。軸の一端を上面、もう一端を下面にうまく当てて、回転数の同調を取ると、
細い軸が持つ適度な摩擦によりはずみ車をどんどん加速させられるのだ。不器用な人は、
なかなか回せる様にならない。
回せる様になるのに本当に悔しい思いをしたものの一つである。
この玩具を見てピンと来たのは間違いではなかった。スピンにも同様の同調が必要なのだ。

 ・・・と、こういったものを見てスピンの原理を模索してきたのだが、次第に次のような
ことが分かってきた。
重心が片寄ったものを無理矢理回すと、その物体は自転だけではなく公転する。
ブーメランが戻ってくるのも同様の原理だと思う。
要するに、スピンは自転しているだけでなく公転しているのだ。
自転しているものといえば地球だが、コマの方が身近だろう。誰もがスピンを見てコマの様だと
思うに違いない。



しかし、そう思ったら最後、人によってはスピンを習得出来なくなるかも知れないくらいに、
スピン習得の際にイメージしてはならないものだと思う。

 さて、公転するものとしてどういうものをイメージすればいいか。
まず最初は、石うす。
柄を持って石うすを回す動作とスピンを対比させると、その柄がスピンの際の軸足(踵)に
相当するのだ。




次に、遠心力とのバランスを考慮した例として、下図の様な、柄のついた角材を回すことを考えてみる。



柄を持ってこれをどのようにすれば角材が回転するか。どうすれば加速してどうすれば減速するか、
そしてどういう遠心力を受けるか。
このようなもので動きのモチーフを把握しておけば、スピンの際に訳に立つ。

なぜ目が回らないのか

バレエ・ダンサーは、目が回らないように出来るだけ正面(観客席)を見ている時間を長く保つ
ことで目が回らないようにしているらしい。
 具体的には、首だけ正面を向いたまま残して首から下を回転し、およそ半回転したところで、
 残しておいた首を一気に正面まで1回転させて先回りし、首から下は残り半回転、それに
 追い付くように回転させる。
しかし、フィギュアスケートのスピンは、常に高速に回転するわけだからこの方法は通用しない。
日本では、自己流でスピンを練習する人は極めて少ないため、目が回ったり、スピン酔いする人は
まず居ないが、下手な練習をすると当然のように目が回る。
結局、スピンで目が回らない理由は、「公転」であることが大きな理由だろう。
一般的なバックスピンの場合、常に後ろ向きに滑っているような感覚であり、あまり回転している
という感じがしないものである。また、視覚によって目が回るということもない。
軸がブレたり、体が軸の反対側に来て軸と度々交差するようなことになると途端に目が回ることになる。

エッジをコジないために

スピンの図形がターン図形にならない様にするには、まわし込みのためのある程度の踏ん張りが
必要だった。また、どう踏ん張ってもその場でコジてしまう傾向が消えない。
ある程度踵を振り込む様にすればいいと分かってきたもののそれだけでは駄目らしい。
また、スピンが公転だと分かってもそれを実現するためにどういう動作をしなければ
ならないかは依然として謎だった。
そして、ふとある時台車のキャスターを見て「これだ!」と思った。



キャスター(自在車)は、車輪が横ズリしないための工夫なのだ。
車輪の回転軸と車輪の向きを変えるための軸は、少しズラしてある。
これをスケーティングに当てはめると、つま先立ち(正確には、足指の根元)が必要だ
ということだ。
もちろん、ある程度は、ブレードの乗り位置を前の支柱辺りにして滑ったりもするので
そこそこつま先立ちも出来ていたのだが、ある程度つま先立ち出来る様になっても、
安定性が保てる様になるには更に鍛練が必要。この鍛練にもかなりの時間を要した。

秘密の練習方法

スピンの原理が分らないまでも、その練習が筋力を保つだけでも1週間に3時間程度の
練習では、難しいと感じた。最低でも3日に一度は練習しないと。
ということで、スピンに関して自宅で練習出来る方法を考えた。
スピンに限定するなら、丈夫なターン・テーブルがあれば出来るに違いないと思った。
探してみると、陶芸用のロクロに背が低いものが見つかり、とても滑らかで体重を十分に
支えられるだけの強度があった。軸が固定されているので氷の上のように自由度はない。
その代わり軸の矯正を受けるから回転は安定するはずだ。
ということで、これを購入して練習した。
しかし、その軸に合わせて回転するのは、非常に難しかった。
まず、足をどの位置に置けばいいか全く分らない。
一回転もしないうちに簡単に振り落とされる様な状態が続いて挫折し、季節が冬になって
鋳物のろくろが冷たくて裸足の足を乗せるのが辛くなり、半年くらいこの練習をやめていた。
それでも、その冬までのロクロによる練習効果は、確かに氷の上でのスピンを本来のスピンに
近付けるのに貢献していた。そして春が過ぎ、ロクロのことを思い出して練習を始めたら、
次第に回れる様になってきた。足を置く場所も分るようになってきた。
これは、氷の上でスピンをするのと全く同じだ。
実際にスピンしている足を真上から見ると下のようになる。

  

基本的にスピンは、一度バランスを崩すとリカバー出来ないことが多い。
リカバー出来る範囲がとても小さいからだ。
また、軸足は、バランスを取るために極端に緊張する。
踏ん張る際に筋肉が痛いくらいに張るのだ。しかも、つま先立ちとは言わないまでもロクロでも
踵を軽く浮かせる様にしないとうまく回れない。筋肉が疲れると安定性がなくなる。
コンスタントに3回転くらい出来る様になってくるとそこからの上達は早いと思う。
決して無理をしてはいけない。無理矢理回して強いモーメントで回る方が面白いが、
軸が取れないうちにそれをやっても上達はしない。
導入時に体が持っている回転モーメントと、軸の絞り方で回転速度が決まるので、その
回転を見極めて一定に保つようにしてバランスを取らなければならない。
回転にムラが生じない様にすることもとても重要だ。
軸を絞る際には、色々な要素を同調させて、結果として足先の支えで遠心力などを
踏ん張るようにする。
もう、この後は細かいことを考えても仕方ない。練習あるのみだろう。
ロクロでの練習は、氷の上でもそのまま通用すると思う。
ただし、最初に氷の上でやる時に若干エッジをコジる傾向が出たりする。
また、ロクロでは回転は決められた軸に固定されているのが、氷の上ではそうではないので、
トラベリング対策は、別途練習を要する。
しかし、体はロクロの安定した軸をしっかりと覚えているので、良いアプローチでスピンに
入れた時は、安定して回れる。
氷の上では、トラベリングを起こすと回転ムラをなくすことが出来ないため、安定した軸を
保つためにもトラベリングを消すことが先に必要になると思う。
スピンは、途中で失敗した時リカバーできないので、スピンだけでの練習では成功を連続
させない限り筋力すら鍛えることが出来ない。
確かに、挫折する要因は、幾つもあるものだ。


ロクロ・スピンのその後

これによって、慣性モーメントを意識したバランスの取り方が良く分かった。
最近ロクロでの練習はほとんどしていないが、たまに緩い回転で軸を確認するのに使う。
背筋が伸びてきたことと、ジャンプでの回転軸が安定してきたということもあり、
ロクロ・スピンにも進歩が見られる。
見た感じあまり分らないかもしれないが、遠心力を踏ん張る力が相当違って来ている。
やっぱり、この練習方法はほぼ氷の上と同じなんだと実感している今日この頃。
以下に、2種類のムービーを追加した。



注)私のスピンは、一般的な回転方向とは逆です。
  スピンを志す人は、よほど理由がない限り反時計回りで練習して下さい。

私が考えるスピンの種類

専門家は、スピンをどのように分類してどういう名称をつけているか私は知らないが、
原理的には、全部で8種類考えられる。



フィギュア・スケート教室(反時計回り)では、左足ストレート・バックを最初に教えている。
恐らく、右足クロス・バックで入る平易なアプローチ方法を知らないのでしょう。
実際フライング・シットや足替えで入る方法でやっているのしか見たことない。
私は、時計回りプレイヤーだが、以下の理由で左足クロス・バックを最初のスピンとして選んだ。
1. アウト・サイド・エッジでの滑走からスピンに発展させるという構想を持っていたこと。
2. スピンよりジャンプの回転を習得することを主目的にしており、着氷足を軸にした
  回転制止動作をこのスピンの練習によって獲得出来ること。
3. スクラッチ・スピンを行うのに有利だと思ったこと。
4. オリンピック選手は、クロス・タイプを好む。

結び

私は、スピンに関して原理も理解して、一応初歩段階ではあるが、それを実践で証明出来た
と思っている。
スピンが遊びながらスケートを楽しむ中で、果たして自然発生的に考案されるものだろうか・・・
などという疑問もあったが、多くの人が色々な楽しみ方をする文化の中では、
5年もすればこれくらいやる人は出てくるだろうというのが、今の見解だ。
果たして、このページは、挫折した人に何かヒントを与えられるであろうか・・・

新たな展開

今まで、あまり本気にスピンをやっていない自分だが、ロクロ・スピンで最初に軸を作れる様に
なって以来、アクセルジャンプなどで逆にスピンの姿勢も安定してきたと思う。
しかし、どうやってもトラベリングが直らない。
新横浜の佐藤コーチの著書に書かれていた巻き込み式アプローチでも、入る際のスリー・ターンを
抜ける方向など、書籍に書かれていることは試したが、どうも原因はだいぶ違いそうだった。
自己流で直すのは無理かと思っていたが、解決の糸口が掴めた。
エッジを「押す」という基礎がスピンにも関係するか・・・と考えていたとき、一般滑走で強く氷を
押した状態でツルツルなのが自分の理想だが、スピンのエッジの理想でもあると感じたことがある。
そこで、両足スピンにそれを応用することを考えた。
スケートを始めて間もない頃、両足スピンは、引っ掛かるので出来ないと思っていた。
エッジの向きを正しく平行に近い状態に維持しなければならないので、そのための保持力が
ないからだ。また、最近まで、足首を筋力で固める様にして方向を保持することばかり考えていたが
ちょっとズレるとコジたり氷を軽く削ってしまう。
ところが、発想を少し変えて、エッジで内側から外側に押すと、エッジの角度も維持出来、
アクティブに制動を受けられる様な柔軟性も得られると思った。
足を肩幅くらいに開いて、両足スピンするときに、インサイド・エッジが氷についた状態で
無理矢理筋力で足を開く様に内側からエッジを押さえてやる。体重は、両方の足に
均等にかかるように乗せる。
するとどうだろう、氷を押して回転を加速することも出来、エッジがツルツルに感じる。
自分の今の筋力なら、腕を振って回転を作らなくても、ちょっとエッジの角度を工夫してやれば
エッジを押さえるだけで回り始めることが出来るくらいになっている。
今度は、それを片足スピンに応用してみた。
片足でも押せるか?という疑問はあったが、感覚的に自然に押すことが出来た。
するとどうだろう、押すと回転を巻き込みカーブするではないか。
これをトラブリングの解消に応用出来るのではないかと考え、回転が流れ始めたら強く押し
留まったと思ったら押す力を緩めるという様にすると、ある程度のトラベリングなら
解消することが出来る様になった。
また、大きな円でしかスピン出来ない人は、エッジを押す力が足りないかもしれない。
私は、昔からスピンは、途中から加速出来ると思って来た。
物理学の本を見ると、モーメントとトルクの解説で腕を閉じるから回転数が上がるというのが
書かれているが、それだけではなく、エッジを押すことによって推進力を得ているケースもある。
そうでなければ、腕の振りなしで両足スピンを始められるはずもない。
元インストラクターと名乗る人に少し教えてもらった時、お前のスピンは、浮いている
と言われたことがある。当時の自分のスピンは、腰から上にロクロ・スピンの軸を作り
エッジは、コジないように乗って正しい方向を向ける程度で全然押していなかった。
ほとんどフラットエッジだったので、遠心力を受けられるはずもなかった。
この浮くという表現は、遠心力をエッジで受けるために重心を円周の中に押し込んで
上からしっかり体重をかけて少し体を内側に倒すくらいにして遠心力を上から押す力で
封じ込めてエッジを押して踏ん張るというという動作が破綻した状態らしい。
そして、今回は、遠心力に逆らう以上に意図的に筋力で押す様にした。
ちょっとスピンが面白くなって来た。(2004.8.1)

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